2-2 詐欺・強迫とは

詐欺、強迫のアイキャッチ画像

1.詐欺・強迫とは

(1)定義

詐欺=人を騙して意思表示をさせること
強迫=暴行や脅迫を用いて相手を怖がらせ、意思表示をさせること

 (2)条文の規定

(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

民法96条1項は、詐欺または強迫により相手方が意思表示した場合には取消しができると規定しています。

この規定の趣旨は、詐欺や強迫により意思表示してしまった人を助けてあげる、という点にあります。

(詐欺の例)
Xは、Yから甲土地は時価5000万円だが、近々、甲土地の近辺に新しい線路が通り、駅もできるので利便性が向上し、地価が跳ね上がると言われ、その甲土地を8000万円で購入した。
しかし、Yが話したような新しい線路や駅の話は実際にはなく、Yもそのことを分かった上でXへ話を持ちかけ、Xはだまされて甲土地を買う契約を締結してしまった。

Yからだまされて甲土地を高く買ってしまったことにより、Xが売買契約を詐欺 取消しする事案です。

(強迫の例)
CはDから殴る蹴るの暴行を受け、Cが所有する丙土地を100万円で売る契約を締結させられた。

Bからの強迫を理由に、Aが売買契約を取り消す事案です。

2.取消か無効か

無効=ある法律行為の効力が最初から発生しないこと
取消し=いったん発生した法律行為の効力を、当初に遡って消滅させること

(無効の例)
Aは多額の借金があり、債権者から自己の土地が差し押さえられることを恐れていた。そこで、Aは土地を売るつもりがないにも関わらず、Bに事情を説明して甲土地を売る契約を偽装して登記を移転した。

この例は通謀虚偽表示に該当し、無効です。AとBの契約は成立していますが、契約の効力(所有権の移転など)は最初から発生していません。

(取消しの例)
 CはDから殴る蹴るの暴行を受け、Cが所有する乙土地を100万円で売る契約を締結させられた。

CとDの間には売買契約が成立していますが、Cは強迫により契約を取消すことができます。

Cが契約を取り消すまでは、契約の効力(所有権の移転など)が生じています。Cが契約を取消すことにより、契約当初に遡って契約は無効になります(これを「遡及的無効」といいます。)。

無効と取消しは以下のようなイメージで覚えてください。

◯無効と遡及的無効の違い
無効も遡及的無効もどちらも契約の効果が最初からなかったことになるので、両者を区別する必要はどこにあるのでしょうか?


取消しによる遡及的無効についていうと、取消しができるのに期間制限があります(時効)。よって、すでに発生している契約の効力が確定します。


逆に無効に時効はありませんので、時間の経過によって契約の効果が発生するようなことはありません。取消しと違い、無効は最初から契約の効果が発生していませんので、時間がいくら経とうと無効なものは無効です。

3.詐欺・強迫による取消しの効果

詐欺や強迫により契約を取消すと、契約がなかったことになります(遡及的無効)。そして、すでに所有権や物等が移転している場合、それを相手方に返すことになります(これを「原状回復」といいます。)。

(取消しの効果)
第121条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。

「給付」とは、債務(義務)の履行として行われる債務者の行為や、金銭や物の支給を意味します。要は契約相手に仕事をしてもらったり、お金や物をもらったりすることです。

「原状に復させる」とは、最初から契約がなかった状態に戻すということです。契約の巻き戻しというイメージです。

(原状回復義務の例)
AはBから殴る蹴るの暴行を受け、Aが所有する土地を100万円で売る契約を締結させられた。その後、AはBに対して土地所有権の移転登記を完了(給付)し。BはAに対し、100万円を渡した(給付)。
Aは、土地をBへ渡すことに納得していなかったことから、1ヶ月後に売買契約を取消した。

Aが売買契約を取り消したことで、初めから売買契約がなかったことになります(121条)。初めから売買契約がなかった以上、土地の所有権もAからBへ移転していません。よって、Aは土地の所有権を保持したままです。

また、初めから売買契約がなかった状態に巻き戻さなくてはなりません(121条の2)。Aが受け取った100万円はBに返し、AからBへの所有権移転登記は抹消し、登記上、Aが土地所有権を有する状態を回復します。

4.詐欺・強迫取消しと第三者の保護

(1)第三者保護規定の意義と趣旨

詐欺・強迫により契約を取消すと契約が最初からなかったことになり、すでに渡しているお金や物などは返還しなくてはなりません。この結論は、売主と買主の間では妥当するのですが、第三者が関わった場合には当然に妥当はしません。第三者の信頼を保護したり、取引の安全を保護する必要があるからです。

 (第三者保護規定の例)
Xは、 Yから欺かれて、自己が所有する土地を時価よりも相当安く売ってしまい、登記も移転した。その後、Yは、Xから買受けた土地を、時価でZに販売し、登記も移転した。

XはYに対し、売買契約を取消し、所有権移転登記の抹消を請求することが考えられます。XY間であれば、Xは保護され、土地の所有権を取り戻すことができます。

しかし、今回は土地の転売を受けたZ(「転得者」と言います)がいます。民法は、このような転得者(Z)を一定の場合に保護する規定をおいています。

(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法96条3項は、転得者(Z)などの第三者を保護するための規定です。Zが善意かつ無過失であれば、Yから買い受けた土地の所有権を確保できます。他方、Xは所有権を完全に失います。

このような第三者保護規定(96条3項)の趣旨は、
・被欺罔者(X)よりも、落ち度のない第三者(Z)を保護すること
・取引の安全を保護すること
にあります。

被欺罔者(X)は可哀想ではありますが、騙された者にも一定の落ち度があることを考慮し、落ち度のない第三者(Z)の方を優先的に保護しようというのが民法の立場です。

このような第三者保護規定がなければ、売買契約を締結した後、何年も経ってから「詐欺取消しをしたので物を返してください」と言われかねません。これでは安心して物を買うことができませんので取引の安全が害されてしまいます。第三者保護規定は取引の安全を図る趣旨もあります。

 (2)要件の検討

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

ア 第三者

96条3項が適用されるためには、第三者でなくてはなりません。

第三者とは、詐欺の当事者以外の者(相続人などの包括承継人を含む)であって、詐欺による意思表示によって生じた法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいいます。

「第三者」の定義は難解なので、基本的には転得者をイメージしておいてください。

この第三者の概念で注意が必要なのは、詐欺の当事者以外の者でなくてはならないという点です。

(「第三者」の例)
Xは、 Yから欺かれて、自己が所有する土地を時価よりも相当安く売ってしまい、登記も移転した。その後、Yは、Xから買受けた土地を、時価でZに販売し、登記も移転した。

XとYは詐欺の当事者(Xが被欺罔者、Yが欺罔者)ですので、「第三者」には該当しません。

Zは、詐欺の当事者ではなく、土地の転得者ですので「第三者」に該当します。

(「第三者」に該当しない例)
Aは、 Bから欺かれて、自己が所有する土地を時価よりも相当安く売ってしまい、登記も移転した。その後、Bが死亡し、唯一の相続人であるCがBを相続した。 

AとBは詐欺の当事者(Aが被欺罔者、Bが欺罔者)ですが、Zはどうでしょうか?

ZはBの唯一の相続人です。相続とは死亡した者(B)の財産を相続人が包括的に承継する法的効果があり(包括承継と言います)、死亡した者の一切の権利・義務を相続人が引き継ぎます。つまり、法的にみると、死亡した者(B)=相続人(Z)と同様に見ることになります。

(被相続人と相続人のイメージ図)

このことから、ZはBと同一視され、「第三者」には該当しません。

包括承継(相続をイメージしておいてください)が生じる場合、相続人は「第三者」に当たらないという考え方は他の箇所でも出てきますので、押さえておきましょう。

〇ポイント-強迫取消しには第三者保護規定はない
第三者の保護が図られているのは詐欺だけであり、強迫について第三者保護規定は存在しません。詐欺はだまされた人にも一定の落ち度はありますが、強迫の場合に落ち度があるとは言えません。そのため、民法は強迫の場合に第三者保護規定を設けていません。

 (詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法96条3項は、「詐欺による」意思表示の取消しだけしか、第三者保護の規定をおいていません。強迫の場合は本人が保護されます。

〇ポイント―取消前の「第三者」
96条3項の「第三者」に該当するには、取消「前」に利害関係に入った者でなくてはなりません取消「後」に利害関係に入った者は96条3項ではなく、177条(不動産物権変動の対抗要件)により保護されます。

  (取消「前」の第三者の例)
Xは、 Yから欺かれて、自己が所有する土地を時価よりも相当安く売ってしまい、登記も移転した。Yは、Xから買受けた土地を、時価でZに販売し、登記も移転した。その後、Xは売買契約を詐欺取消しした。

Zは、Xが取消す「前」にYから土地を買い受けており、取消「前」に利害関係に入った者と言えます。よって、96条3項の「第三者」に該当します。

(取消「後」の第三者の例)
Xは、 Yから欺かれて、自己が所有する土地を時価よりも相当安く売ってしまい、登記も移転した。詐欺の事実に気づいたXはすぐに売買契約を詐欺取消しした。その後、Yは、Xから買受けた土地を、時価でZに販売し、登記も移転した。

この事案では、Zは取消「後」に現れています。Zは、取消後に、Yと売買契約を締結し利害関係に入っているので、96条3項の「第三者」には該当しません。

判例は、取消「後」の第三者(Z)の場合にも、第三者を保護する必要性を考慮し、177条により処理することとしています。取消「後」の第三者の論点については、別の章で改めて解説します。

以上の通り、96条3項の「第三者」が取消「前」の第三者に限られるのは以下の理由によります。

96条3項は、取消しによる遡及効(遡及的無効)を制限することで、第三者を保護するための規定です。つまり、取消により契約が遡及的に無効になった場合に影響を受ける利害関係人を保護するための規定なのです。取消「後」に利害関係に入った者については、取消しによる遡及効がすでに生じたあとですので、遡及効による影響を受ける利害関係人とは言えません。

ここは、図でイメージを押さえましょう。

(遡及効から第三者を保護するイメージ図)

イ 善意かつ無過失

善意=詐欺の事実を知らなかったとこ
無過失=詐欺の事実を知らなかったことについて落ち度がないこと

善意の反対は悪意といいます。我々が日常的に使う善意(良い心、親切心)、悪意(悪い心)という意味ではありませんので注意してください。法律上の善意・悪意は「知っているか」(=善意)、「知らないか」(=悪意)というだけで、心の良し悪しは関係ありません。

無過失の反対は有過失といいます。

   

(悪意の例)
XはYから騙されて、時価5000万円の土地を2000万円で売却した。その後、YはZへその土地を4500万円で売却した。Zは、YがXからその土地をだまし取ったことを知っていた。

これが「悪意」の転得者(Z)の例です。悪意のZを保護する必要はありませんので、XはZへ「土地を返せ!」と言えます。

(有過失の例)
XはYから騙されて、時価5000万円の土地を2000万円で売却した。その後、YはZへその土地を4500万円で売却した。Zは、YがXからその土地をだまし取ったことについて少し調査すればすぐに気付けたにもかかわらず、調査を怠り、購入していた。

これが「有過失」の例です。Xが騙されている事実を調査すれば気付けたにも関わらずこれを怠ったZを保護する必要はありません。

注意が必要なのは、善意「かつ」無過失(善意+無過失)の第三者でなければ保護されないということです。よって、善意だが過失があったような場合は保護されません。

〇ポイント-第三者保護規定の位置づけ
以上説明してきた通り、民法は詐欺や強迫について、原則、取消しを認める(96条1項)立場に立っていますが、例外的に、善意かつ無過失の第三者が現れた場合には、その第三者を保護する規定を置いています。(96条3項)
これは、取消権者(だまされた人、強迫されたひと)の保護と、第三者の保護、どちらを優先すべきか、という利益衡量の問題です。

(3)効果

96条3項によると、善意かつ無過失の第三者に該当すれば、取消しの効果を対抗できないと規定されています。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

「対抗することができない」という意味は、取消の効果を「第三者」へ主張できないという意味です。

 (「対抗することができない」の例)
XはYから騙されて、時価5000万円の土地を2000万円で売却した。その後、YはZへその土地を4500万円で売却した。Zは、YがXからその土地をだまし取ったことについて知らず(善意)、知らなかったことに落ち度はなかった(無過失)。

この例では、Zは「善意かつ無過失」の「第三者」として96条3項により保護されます。

仮に、XがYに対し、売買契約を取り消したとするとしても、取消の効果(遡及的無効、原状回復義務)をZに主張することができません。

具体的には、XがYに取消権を行使すると、売買契約が遡及的に無効となり、XからYへの所有権移転が最初からなかったことになります。そうすると、Xは土地の所有権に基づいてZに対して土地の明渡しや登記の抹消を請求することができそうです。

しかし、Zは第三者として保護されることにより、Xは取消権行使の効果(遡及的無効)をZへ主張することはできません。つまり、X→Y→Zという土地の転売は有効に存続するものとして扱われ、Zは所有権を承継取得することができます。

(「第三者」へ無効を主張できる場合)

(「第三者」へ無効を主張できない場合)

5.第三者による詐欺・強迫

(1)96条2項の意義

これまでは、取引の相手方が詐欺・強迫を働いた場合の話をしてきました。以下では、第三者が詐欺・強迫を働いた場合について、解説します。ここは、これまでの議論と混乱しやすいですので、まずは事例の違いを押さえましょう。

(96条1項の事案)

これまで学習してきた事案は詐欺を行った者(B)が契約の当事者になっていました。

(96条2項の事案)

96条2項は第三者による詐欺行為が問題となっています。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

(96条2項の事案)

96条2項の規定は少し難解なので、以下のよう考えてください。図を見て典型例を頭に入れておくようにしましょう

・相手方=意思表示を受ける側(B)
・第三者=詐欺を行う者(Z)

96条2項も詐欺による取消しの条文ですが、詐欺を行うのが契約の相手方ではなく、第三者という点が特徴です。

契約の相手方と取消権者(被欺罔者)のどちらを保護するのか、利益衡量している点が本条の意義であり趣旨です。

96条2項によると、「詐欺」の場合で、相手方(買主)が悪意または有過失の場合は、取消権者が優先し、保護されます。

ここでも注意が必要なのは、「強迫」の場合が除かれているという点です。第三者から強迫を受けて意思表示をした取消権者は常に保護されるということです。

 〇=相手方が保護される(=取消権者が負ける)
 ×=相手方が保護されない(取消権者が勝つ)

上記図表は取消権者が保護される場合を条文に従い分類したものですが、96条3項の第三者保護規定と同じ結論です。

詐欺・強迫の場合に第三者が出てくる場合に、取消権者(だまされた人、強迫された人)が保護されるのは、第三者(または第三者)が「善意かつ無過失」の場合だけです。

(96条2項の場合の第三者保護規定)

本事例は第三者(Z)から詐欺を受けたもので、96条2項の問題です。そして、Bは詐欺の事実について悪意ですので、AはAB間の売買契約を取消すことができます。しかし、Aが取消す前にBはCへ土地を売ってしまいましたので、Cが「第三者」として保護されると、Aは取消の効果をCへ主張することができません。

本事例では、Cが善意かつ無過失ですので、Aは取消の効果をCへ主張できず、土地の所有権を取り戻すことができません。

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