1.錯誤とは
(1)意義
錯誤=表示行為と真意が食い違っている状態
要は、勘違いして意思表示してしまった状態を「錯誤」といいます。勘違いで意思表示してしまった人を保護するため、民法は錯誤を取り消せると規定しています。
(2)錯誤の種類
錯誤には大きく分けて二つの種類があります。これは意思表示の過程で、どの部分に錯誤があるのかにより、法律上の要件が変わってくるため、区別して押さえる必要があります。
意思表示は以下のような構造を持っています。
(例1)
Aは4階建ての家が建てたいと考えて土地を探していたところ、甲土地を発見し、Bに甲土地を売ってもらった。
Aは4階建ての家が建てられる土地がほしい(動機)
↓
甲土地を買いたい(内心的効果意思)
↓
Bに、「甲土地を売ってください」と言った(表示行為)
上記の例が、意思表示が成立するまでの過程なのですが、このどの部分に勘違いがあるのかで、錯誤の種類が変わります。上記(例)に事案を付け足します。
(例2)
Aは4階建ての家が建てたいと考えて土地を探していたところ、甲土地を発見し、Bに甲土地を売ってもらった。
①甲土地は建築基準法の要件を満たさず、4階建ての建物を建てることができなかった。
②Aは「甲土地」ではなく、誤って「乙土地」と売ってほしいと言ってしまい、「乙土地」の売買契約が成立してしまった。
(例2)では、①②で錯誤が存在する場所が異なります。
①は、4階建ての建物が建てられると思っていたにもかかわらず、実際には建てることができなかったという「動機」に錯誤がある(=「動機の錯誤」)
②は、「甲土地を売ってください」というつもりが、「乙土地を売ってください」と言っており、表示行為に錯誤がある(=「表示の錯誤」)。
Aは4階建ての家が建てられる土地がほしい(動機)←①の錯誤
↓
甲土地を買いたい(内心的効果意思)
↓
Bに、「甲土地を売ってください」と言った(表示行為)←②の錯誤
以上を踏まえて、条文を確認してみましょう。
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤(←表示の錯誤)
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(←動機の錯誤)
⇒95条1項1号(表示の錯誤)
「意思表示」・・・・・・乙土地をください
「に対応する意思」・・・甲土地が欲しい
「を欠く錯誤」
⇒95条1項2号(動機の錯誤)
「表意者が法律行為の基礎とした事情」・・・・4階建ての家が建てられる土地がほしい
「その認識が真実に反する錯誤」・・・・・・・4階建ての家が建てられると思っていたのに、甲土地では建てられなかった
2.錯誤の要件及び効果
(1)要件
錯誤の要件は、表示の錯誤と動機の錯誤で区別して覚える必要がありますが、共通している要件も多いです。それぞれの要件については表にまとめておきますので、それを覚えてください。
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤(←表示の錯誤)
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(←動機の錯誤)
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったと。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

上記の表と条文を照らし合わせて、要件を覚えておきましょう。
ポイントとしては、相手方が悪意・重過失の場合、及び、相手方も同一の錯誤に陥っている場合には、表意者の主観(重過失)に関わらず、錯誤が成立するという点です。
〇ポイント―動機を表示する必要性
上記の表でも明らかなように、動機の錯誤については相手方へ動機を表示していることが錯誤の成立要件となっています。
この理由は、動機は種々様々存在し、また、契約交渉の過程で必ずしも相手方へ示されるとは限らないので、相手方を保護する必要性が高いためです。
(動機の錯誤の例)
Aは4階建ての家が建てたいと考えて土地を探していたところ、甲土地を発見し、所有者であるBと契約交渉を行った。交渉の過程で、Bは、Aに対し、甲土地の状態や近隣環境、駅までの道のりなどを説明し、現地視察にも同行した。
交渉の末、ABは甲土地の売買契約を締結することとなった。
しかし、甲土地は建物制限区域に指定されており、2階建て以上の居住用建物を建築することができなかった。
⇒ ABは売買交渉の中で、「甲土地」が目的物であることを認識しています。したがって、契約締結の段階になり、契約書で「乙土地」が売買目的物になっていれば、相手方であるBも気付ける可能性があります。(←表示の錯誤のケース)
しかし、売買交渉の中で、Aが甲土地を欲していた理由(動機)が4階建ての家を建てたいという点であることについては、一切示されていません。家を買う動機というのは種々様々存在しますので、Bからすると、Aの動機を推察することはできません。このような隠れた動機に錯誤があることを理由に、売買契約を取消されるとなれば、Bはたまったものではありません。
他方、契約交渉の過程で、Aが「4階建ての家を建てるために甲土地を買いたい」とBに明示していた場合はどうでしょうか。このような動機を知っているBとしては、Aが錯誤に陥っていることも気付けたはずであり、甲土地では4階建ての家を建てられないことを教えてあげてもよかったのではないでしょうか。つまり、Bとしても、Aが動機の錯誤で売買契約を取消すことを予見した上で契約を締結できます。
動機の錯誤において、同意を明示するのは、契約の相手方保護の要請があるためです。
(2)効果
錯誤取消しの効果は、意思表示の取消しです。無効ではありませんので注意してください。
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
3.第三者保護規定
錯誤取消しの場合も、第三者を保護する要請は詐欺取消などの場合と変わりません。
表意者の錯誤について善意・無過失の第三者に対し、取消の効果(遡及的無効)を主張することはできません。
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。


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