1.はじめに
制限行為能力制度は、意思無能力を補完する制度であると説明されることがあります。今回は制限行為能力制度と意思無能力制度の関係性について解説します。
2.意思無能力制度のおさらい
意思能力=自分の行為の結果を理解し、適切に判断できる精神的な能力
(意思無能力)
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
(意思無能力の例)
Aは高齢で認知機能も非常に低下し、自分の子供を見分けることができない、食事を忘れる、外出したら自分の家がわからず帰ってこられない、などの状態に陥ることがしばしばあった。
ある日、Aは、近所の親しくもないBに対し、急に5000万円を贈与すると言い出し、Bとの間で契約書を取り交わした。贈与契約を締結する際、Aは、意味不明な言動を繰り返しており、明らかに通常人の判断能力を備えている状態になかった。
Aは、高齢で認知機能も非常に低下しており、贈与契約を締結した際も通常人の判断能力を備えていなかったということですから、意思能力がなかったと思われます。よって、A B間の贈与契約は無効です。
意思能力は、「意思表示をした時」(贈与契約を締結した時)に存在したのかを判断します。したがって、普段は認知機能が低下していたAが、 Bと「贈与契約を締結する時」には認知機能を回復していたような場合は、、意思能力があったと評価されます。
意思能力の判断は、意思表示の度に個別に判断されることになります。
(2)趣旨
民法3条の2は、意思無能力者の意思表示を無効としています。これは、自分の行為の結果を理解し、適切に判断できる精神的な能力(意思能力)を欠いた者に、法的責任を負わせるのは妥当でなく、そのような意思無能力者の行為を保護すべきと考えられるためです(意思無能力者の保護)。
(3)取引の安全
このように、意思無能力者の法律行為が後から無効と判断されると、取引の相手方が困ることになり、安心して取引できません。そのため、実際の裁判で意思無能力を認定することは慎重になされます。
誰がどう見ても通常の判断能力を有していないような場合は、意思無能力が認められる可能性があります。このような場合は取引の相手方も意思無能力に気付いていた可能性が高いですし、気付くべきです。
意思無能力者の保護は、取引の安全とバランスをとりながら実現される必要があります。
3.意思無能力制度の問題点
意思無能力制度は、本人を保護するために重要な制度です。しかし、「意思表示をした時」に意思無能力であったことを裁判で立証するのは非常にハードルが高いといえます。
意思無能力者は、常時意思能力を欠如しているわけではなく、一時的に意思無能力に陥っている場合も多くあります。むしろ、常時意思能力を欠く状態にあれば、取引相手もその状態に気付き、通常であれば取引を避けるため、争いになりません。
問題が生じる(裁判になる)のは、一時的に意思能力を欠いている場合です。
4.制限行為能力制度の役割
一時的に意思能力を欠く者を常時保護する仕組みとして機能するのが制限行為能力制度です。
裁判所の審判があれば、審判確定以降、意思能力の有無に関わらず、一律契約を取消すことができます。これにより、意思無能力制度の保護から漏れてしまう方を保護することができるようになります。それゆえ、制限行為能力制度は意思無能力制度を補完する役割を担っているといえます。
意思無能力制度と制限行為能力制度の違いはイメージでとらえておいてください。

契約時に意思無能力であったことをピンポイントで立証する必要があります。

審判開始決定が確定した以降は、個別に意思無能力を立証する必要はなく、契約を取り消せます
5.過去問検討
これまで意思無能力と制限行為能力の関係性を学習してこられた皆さんでしたら、以前解説した過去問を条文の知識なく解答できるのではないでしょうか。今一度チャレンジしてみましょう。
【令和6年-問1】
法律行為に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1 営業を許された未成年者が、その営業に関する意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合は、その法律行為は無効である。
答え ◯
(解説)
「営業を許された未成年者」、「その営業に関する意思表示」という問題文を読んで、制限行為能力者の話であると考えた方もいるかもしれません。しかし、本問は条文の知識がなくても解くことが可能です。
本問は意思無能力の状態で行われた意思表示です。制限行為能力制度は意思無能力制度を補完するための制度ですから、意思無能力であることが確定しているのであれば補完する必要はなく、無効と考えればよいです。
本番で、条文の知識があいまいになっているような場合は、制度の趣旨や民法全体の理解から考えて解答すると、正答率が上がります。


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